2023年11月21日公開 更新:2023年11月24日

マルタ・アルゲリッチと50年

50 Years with MARTHA ARGERICH

マルタ・アルゲリッチの知られざるエピソード  by Y. KOSEKI

 

45. 指揮者は○○○○○のようなものだ

水戸芸術館、塔 シンボル・タワー(2022年5月18日)

1993年の来日公演、ホルスト・シュタイン指揮/バンベルク交響楽団とのシューマンのコンチェルト。世の中に“完璧な演奏”というものが存在するんだ、と驚嘆した。テクニックは言うに及ばず、感情もコントロールを失うことなく燃え上がる演奏。他のピアニストでは絶対に聴くことができない極上の美しい音色... そもそも彼女は11歳の時に完全に弾きこなしている録音も残されていて、この曲を弾くことなど何の苦労も無いのであろう。

2022年5月のシューマンのコンチェルト公演。オペラシティでは、今まで彼女にはありえなかったミスタッチ等もあり、ああ、彼女も歳をとったな、と感じた人もいたかもしれない。しかし、その後の水戸での演奏。これぞアルゲリッチ!というべき名演の5月18日、19日の2日間。特に2日目、19日の演奏は、いままでの彼女のシューマンのコンチェルト演奏の中でも歴代最高の一つであった。彼女も「今までの中で最高だったわ」と言っていた。

水戸芸術館の噴水(2022年5月18日)

今回の演奏では指揮者はいなかった。指揮者のいない演奏・録音の最初は、1980年のロンドン・シンフォニエッタのベートーヴェン第2番とハイドンのコンチェルト。当時、アルゲリッチの弾き振り、と話題になったが、本人によれば指揮はしておらず、コンマスのリデルの合図で演奏が始まっただけ、とのこと。シューマンのコンチェルト、はたしてどうなるのか? と興味津々であったが、豊嶋氏のアインザッツで演奏が始まり、指揮者無しという心配は全くの杞憂であった。というより、彼女が極上のフレーズを弾くと、それにオケも鋭敏に呼応して奏でるので、これぞ至上の音楽! 何と幸せな時であったことか。指揮者がいたら、かえって抑圧された演奏になっていたかもしれない。何たって水戸室内管弦楽団、名人の集団なのだから。

某演奏者が、「マイスキーが言っていたことだけど、指揮者はコンドームのようなものだ。無いと危険だが、より気持ちいい。」と...

、水戸芸術館・楽屋(2017年5月12日)

アルゲリッチの録音、来日記録:Martha Argerich Recordings

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