2023年11月8日公開 更新:2023年11月17日

マルタ・アルゲリッチと50年

50 Years with MARTHA ARGERICH

マルタ・アルゲリッチの知られざるエピソード  by Y. KOSEKI

 

41. 木之下 晃さんと

2007年4月、湯布院

音楽写真家といえば木之下 晃、という程の世界的に名の知れた彼だけれど、その世界での本当の先駆者でもある。私が彼を知ったのは1975年、独立して銀座の和光で個展をやった時で、当時はまだあまり知られてはいなかった。高校生だった私はちょうど写真を始めた頃で、この個展に大変興味をそそられて見に行ったのであった。会場で会うなり、いきなりそのままの瞬間をぱぱっと撮られて、ポートレートの極意を身をもって体験した。その後、意見が衝突しけんか別れとなったり、その後再開して家族ぐるみのお付き合いになったり、お会いしてはよく議論を交わしたりと、2015年に亡くなるまで40年の時を過ごした。ビュッフェ・クランポンから長年、彼の写真を使ったカレンダーが出ていたが、これを取りに年末に彼のアトリエへ行くと、決まっていろいろ具合の悪くなったオーディオ装置などがため込んであって「おい、直してくれよ」と、これは亡くなった私の父と同じだったので、私もそれが嬉しかった年末行事でもあった。

アルゲリッチは1976年から撮り続けていて、一冊の本となっている。エッセイ部分は私が書いているので、お読みいただければと思う。別府でも撮っていて、2007年には写真展も行った。フィルムで撮った写真を印刷、ネットとかで見て「見た」と思ってはならない。生の印画紙の豊かなグラデーションは全く別物で、録音と生演奏の違いと同じだ。是非足を運んで本物を見て欲しい。
さて、彼は芸術家に卵のような石を渡して、その反応を撮っている。お道化て見せる人もいるし、はにかむ人もいるし、正にその人柄が出ていて実に面白い。アルゲリッチの写真は必見! こんな素敵な写真は誰にも撮れない。1999年に、ギトリスとこのフォト・セッションをやった時に立ち会う機会があった。「石」を彼に渡すと、顔をぐぐっと石に入り込んでいった瞬間、スタタタン、とシャッターが鳴り響き、あっという間に 撮影は終了した。時間、空間を切り取る彼の写真術は、さながら魔術のようであった。

1999年11月、別府

2010年、この写真集「石を聞く肖像」が完成し、アルゲリッチにサインをもらってきてくれ、と頼まれた。200人の芸術家たちのリアクションを楽しんで見ていた後、最後にメッセージを書き記した。

1999年11月、別府 。チェルカスキーは「石」を鼻に当ててていて、これが大受け。

別府でサイン、といえば、安心院のアルゲリッチ・ワインも面白かった。 これはさすがに説明は要らないだろう(2010年4月)。

木之下さんも、偉大な芸術家だった。数えきれない思い出があり、自分の中ではいつも彼に問いかけていて、生きている。

1999年11月、別府

心臓手術の時、病室にて。珍しい笑顔の写真。(撮影日、確認中)
 

アルゲリッチの録音、来日記録:Martha Argerich Recordings

#Argerich  #アルゲリッチ  #Akira Kinoshita  #木之下 晃

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