2023年8月9日公開 更新:2023年8月9日

マルタ・アルゲリッチと50年

50 Years with MARTHA ARGERICH

マルタ・アルゲリッチの知られざるエピソード  by Y. KOSEKI

 

29. 別府アルゲリッチ音楽祭-2

2011年5月、大分

私は別府に1995年から通い続けている。仕事もあるので、始発の飛行機で帰って仕事をして、また別府に戻り、等という非効率的な年も度々。金銭的にも海外の音楽祭なみにかかる場合もある。そこまでするのは、ここに通い続けるだけの内容があるからに他ならない。流石に30年近く通えば、観光地や食べ物屋は網羅してはいるものの、ここは未だネタが尽きない所でもある。

さて、毎年とても充実した音楽祭であるのは当然素晴らしいのだけれど、私はこの音楽祭がもたらした画期的なことの一つは、アルゲリッチを写真に慣れさせて世界のメディアに引っ張り出した点があると思っている。アルゲリッチはとても人見知り、シャイでマスコミ嫌い、写真嫌い、インタビュー嫌いで、とても怖い人だった。ところが、1995年のソロ・コンサートが終わった後、打ち上げのパーティーで、何といきなり金屏風の前でスピーチをさせられた。「こんな形で人前でしゃべったことが無い。何を話せば良いのか...と」。これを見た私はびっくり仰天してしまった。その位、インパクトのある、従来では考えられない、ありえない光景であった。

音楽祭のリハーサルではずっとビデオが回され、演奏中だというのに、現地のアマチュア・カメラマンが普通に消音ケースも無しにバシヤバシャ撮影している。演奏中の撮影は、リハーサルといえども普通はカメラを消音ケースに入れて、演奏の邪魔にならないよう 最大限に配慮して望遠レンズで距離を取って撮るのが当たり前だ。名の通った写真家ですら、彼女の写真を撮ろうとすると鋭い目線が飛んできて威嚇される、と言われてきたのに、彼女は全く気にせず弾き続けている。絶句! つまり、彼女が別府という地で多くのボランティアで成り立っているこの音楽祭に理解を示し、許し、心を開いていたのであった。これを何年か続けた結果、撮影もインタヴューもけっこうOKとなったのである。 もちろん、彼女も歳を重ねて丸くなったこともあるけれど。

で、2008年の金屏風では、すっかり?慣れた彼女の姿があった。


ピアノが弾ける人は世界中に数えきれない程いるけれど、本当に心を動かすピアニストは限られる。写真もそうで、誰でも撮ることはできるけれど、本当に良い写真が撮れる写真家は極めて少ない。この稀有な瞬間の記録、という点で仰天した訳だけれど、結果的に物凄い結果を生み出すこととなったと思う。

私は別府では”微妙な立場”だったので、本当は一番撮りたかった演奏の写真は、ほとんど無い。ほとんどがプライヴェートの時のものだ。
 

アルゲリッチの録音、来日記録:Martha Argerich Recordings

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