2023年6月22日公開 更新:2024年2月27日

マルタ・アルゲリッチと50年

50 Years with MARTHA ARGERICH

マルタ・アルゲリッチの知られざるエピソード  by Y. KOSEKI

 

21. 有名人と付き合うということ

2017年5月、東京

よく聞く話。「俺は〇〇と友人だ、という人を知っている」。さらに進化して「俺は〇〇と友人でね」、しかし〇〇に聞いてみると、友人や知人だったことはあまりない。〇〇が故人だったりすると、「〇〇には××をしないよう忠告した」などという人もいて、これは大阪の飲み屋にいるおっちゃんが、「俺は世界チャンピオン△△にストレートを教えた」とか言うのと同じ。 自分は有名人ではないが、少しでもその威光が欲しいのは世の常だ。

諸事情で著名人達と交流を持つに至ったけれど、それは大変なストレスを伴う場合が多い。というのは、もしその著名人が有名でなかったら、決して寄ってこない、見向きもしないであろう人達が取り巻きに多く、そして、こういった人達は得てして始末が悪いのだ。

アルゲリッチ。誰だって一目でも良いから会ってみたいし、知り合いになれたらそんな幸せなことはない。何故なら彼女の音楽に魅せられ、いかに偉大であるのか知っているから。もし彼女が無名であっても、その価値を知っている人達にとっては彼女へのスタンスは何ら変わらない。しかしながら、彼女の音楽的価値は全く理解できないけれど、真のカリスマ、世界的な超有名人であるから寄ってくる人、単純にお金目当ての人、自分のキャリアのために共演を望む者(純粋な音楽的動機ではない場合)、彼女が登場する現場を仕切ることで自己顕示欲を満たす者、その他もろもろで疲れてしまう。さらに、彼女の一番の友人は私よ、と威嚇してくる音楽家、競争もしていないし考えたこともないのに、勝手に土俵に上げて競争、比較してくる者、者、者 。

ギトリスは御覧の通りの神がかった風貌、巨匠の風格にもかかわらず、極めてフランク、ハードルが低いので、その取り巻きはさらに物凄いことになり、楽屋は大混乱となる。彼の最晩年、会っていろいろ話したかったけれど、虚栄心にまみれたとある人の顔を見たくなくて、演奏会が終わってそのまま帰ってしまった。そして挨拶が無いまま、永遠の別れとなってしまった....

有名人が具合が悪くなると、大変だ。理想的とも思える治療を受けているのに、「私はいい医者を知っている」が殺到、中には「霊能力を持った人を知っている」、医師でもないのに薬の差し入れ(中には、薬剤アレルギーがあって服用禁忌のものも)、的外れで危険な医療行為、その他もろもろの交通整理だけでも、物凄いエネルギーを要する。こういった人達は、それらの行為でどれ程の責任、迷惑、混乱が生じるのかは、おそらく考えていない。

2008年5月、別府

とは言うものの、アルゲリッチには魔力的な魅力があり、冷静でいる方が無理な側面もある。写真家の木之下 晃さんは、彼女には夢遊病のようなファンがいる、と書いていたが、それは私に他ならない。
 

アルゲリッチの録音、来日記録:Martha Argerich Recordings

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